はじめに 〜打ち砕かれた自信

 「なんでやねん!」

 真っ赤っかに添削された自分の原稿を見ながら、私は心の中で叫んでいました。25歳の
ときです。

 マスコミの世界に憧れて、食品メーカーから編集プロダクションに転職した私を待ち受
けていたのは、まさにプロの、文章作法の洗礼だったのです。

●そんな日本語はないッ!

 正直言うと、私は自分の文章力に、少しは自信を持っていました。

 というのは、小学2年生のときに、学校の授業で書いた詩が新聞(全国紙です)に載っ
たことがあったからです。また、中学3年のときには、全校生徒の前で読書感想文を発表
したこともありました。この程度の体験でしたが、子ども心に自信をいだくには十分だっ
たのです。

 その後、高校、大学、社会人と、文章らしい文章を書いたことはなく、約10年間のブラ
ンクはあったものの、編集プロダクションに転職する際に提出した作文は、自分でもよく
書けたと思っていましたし、私の文章力が評価されての採用だとも思っていました。

 しかし、私の初仕事として、3日かかって書き上げた某企業の会社案内原稿は、原形を
とどめないくらいに真っ赤っかに添削されたのでした。

 さらにその後も、私の書く原稿はことごとく修正され、

 「何が言いたいのかわからない!」
 「主語と述語が一致していないじゃないか!」
 「一文が長すぎる!」
 「前後の脈略がない!」
 「『てにをは』の使い方がおかしいだろ!」
 「接続詞が多すぎる!」
 「書き出しがつまらない!」

 などと言われ、挙句の果てには、

 「そんな日本語はないッ!」

 とまで言われる始末。

 今でも当時のことを思い出すと、情けなくなってしまいますが、これが現実でした。

 ただ、私にとっての救いは、添削をしてくださったのが、自分でも何冊か本を出版され
ていたライター出身の社長だったことでした。さすがに文章がうまい。

 赤字で修正された部分を読み返してみると、すべて「なるほど!」と納得させられまし
た。

 まだ若くて尖がっていた当時の私も、その添削の見事さを認めざるを得ませんでした。
その指導を受けたことは、今思い返しても幸運だったと思います。

●プロのライターとして認められた瞬間

 それからは、原稿を書いては社長にチェックしてもらう、というライターとしての修業
の毎日を送るようになりました。

 しかし、そう簡単に文章がうまくなるわけはありません。
 最初のうちは、私の書いた原稿は社長の修正の赤字で「まっ赤っか」でした。

 「そんなアホなぁ〜」

 本当にもう、こうボヤきたくなるくらい、それはそれはヒドイ「ダメ出し」だったので
す。

 入社して一〜二カ月経ったころには、自分の文章を書く能力への自信は完全になくなっ
ていました。

 しかし、社長の添削を素直に受け入れ、二度と同じ間違いをしないように意識しながら、
注意深く文章を書いていくうちに、次第に赤字の量が減ってきたのです。

 そして、半年後には、なんと社長の赤字がゼロに。
 一人前のライターとして認められた、と実感した瞬間でした。

 あなたが本気で文章がうまくなりたいと思っているなら、文章の上手な人の添削指導を
受けることをおすすめします。

 私の経験上、自分が書いた原稿を添削してもらうことが文章上達の一番の近道だからで
す。どなたか、あなたのまわりに文章の上手な人はいませんか?

●私が実際にやってきた文章上達法とは?

 私の場合は、編集プロダクションの社長という文章書きのプロが、近くにいたわけです
が、あなたの場合は適当な添削者が見つからないかもしれません。

 しかし、添削を受けるしか文章上達法がないのかというと、そういうわけではありませ
ん。

 実際、私も社長の添削だけに頼っていたわけではなく、自分でできることは、並行して
いろいろやっていました。

 たとえば、後ほど詳しく説明しますが、社長からの「ダメ出し」を「文章を書く際の
チェック項目」
として整理したり、「文章ノート」を作ったり、「本の読み方」を変
えたり
といった自主トレもしていたのです。

 プロのライターの私の経験をもとに、これから仕事として文章を書く必要がある人
参考になればと、この本を書きました。

 しいてつけ加えれば、「仕事として文章を書く必要のある人」というのは、いわゆる文
章を書いてお金を得ている人たちのことではありません。また、「文章をうまく書く」と
いうのは、いわゆる「うまい文章」を書くことでもありません。

 すでにお気づきのようにビジネスの現場でも日常の生活でもメール、ブログ、そしてツ
イッターの爆発的な普及によって、文字を書いたり、読んだりする機会が格段に増えてい
ます。コミュニケーション能力として、文章を書く技術が不可欠であることは言うま
でもありません。

 「文章をうまく書く技術」があるのです。文章がうまく書けなくて悩んだときに、こ
の本が役に立てば幸いです。

●文章上達の5つのステップ

 本書では、文章上達を5つの段階に分け、それぞれのステップで必要な技術を、プロの
ライターとしての私自身の体験も交えながら紹介しています。

 「文章がうまくなりたいけれど、何をすればいいのかわからない」

 そんな人にとっては、やるべきことが見えてくると思います。

 「何をすれば、文章がうまくなるのか」「文章を書くときに何を意識して書けばいいの
か」ということもマスターできるでしょう。

●上達には筋道がある

 「文章がうまくなりたければ、とにかく書け!」と言われますが、ただやみくもに書い
ても文章はうまくなりません。これは断言できます。

 ゴルフがうまくなりたいからと言って、やみくもに練習場で毎日300球連打しても、
一向に上達しないのと同じです。

 何事にも基本があり、技術の習得のステップがあります。

 まずは、文章を書くことに対する苦手意識やコンプレックスを解消することが必要です。

 では、さっそく始めましょう!